Faraday
Faraday

Project D

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7月8日と8月12日の二回の例会で催されたProject Dの報告。私(しらた)に7月分を整理する時間がなかったので二回分まとめて報告することにします。一応、どういう企画だったかを再掲載。

「まことに突然かつ勝手ですが、プロジェクトD (でたらめのDとでも考えてください) と題しまして、真空管アンプキットの製作コンテストを行います 勿論、参加したい人のみを対象とします。なおFaraday会員以外の方の飛び入り参加も大歓迎 ! 対象となるキットは、エレキットのTU-870です。レギュレーションは事実上有りません。いくらかかろうが、中にマークレビンソンを押し込めようが、超3アンプにしようが、ターボを付けようが、ドライサンプにしようが、原子力発電所を組み込もうが、砂を詰めようが、ベースがTU-870であればOKとします。」

というわけで、ノーマルに近いものから、かなり過激な改造を加えたものまでが出品されました。同じキットなのにかなり音質が違うのが面白かったですね。あと、製作者固有の音の傾向というのが、こういうキットにも現われているようです「音は人なり」っていう感じですか。でも、あんまり「人格 = 音」というような事を言い出すと、どこかの偉い評論家先生みたいですな。

Fujisan
冨士山氏の、ツイン・モノラル・パラレル接続仕様です。オリジナルから弄くりまくってますね。まず、目に付くのが、ボリュームのノブが無い事です。ステレオ別冊オーディオ2000の記事によりますと、無いに越した事は無いんだそうです。私も実験した事がありますが、確かにボリュームシャフトには何も付けないのが、最も良い結果が得られた経験があります。気持ちはよく判ります。でも、使いにくそう。

次に、筐体のサイドに取りつけてある端子台と、コンデンサが目に入ります。何でも、段間のコンデンサを付け替えて、音質の変化を確かめる為だそうです。なるほどねぇ...でも、ここって、100V以上のバイアスが掛かっている所じゃなかったっけ?でも、個人で使う分には構わないか。

それから、写真では判りにくいのですが、出力トランスがスペーサで浮かせてあります。この処置を行うと、随分音が変わるそうな。うむ、私もやってみよう。あと、チューブですが、彼はロシア管 (National ブランド) を使用しています。2台分合計4本の6BM8を選別し、挿すポジションもヒアリングで決めているのだそうな。ようやるわい。

Fujisan

Fujisan
冨士山氏の作品のリアビューです。フェライトコアをかませるのは冨士山流ですね。好きだねぇー。

なんでも冨士山さんのお住まいは、付近に工場が多いせいかAC電源があまりきれいでないらしいんですね。それで通常の場合 多用した場合音を殺してしまうフェアライトコアを使ったほうが、良い結果になるんだそうです。部品の良し悪しは時と場合に応じるんですなぁ。

芦澤氏のウナギ犬壱号のフロントビューです。

「オリジナルのシルバーパネルとノブは使用しておりません。私(芦澤)は、金属ノブを装着したボリュームを通過した音が、あまり好きでは有りません。無しが良いのは判っているのですが、それではどうにも使いにくい。

そこで、プラスチック製の物を使用する訳です。ところが、これがオリジナルのパネルと合いません。いっそ、パネル無しで真っ黒けの方がなんぼかましです。そういう訳で、ウナギ犬と相成りました。電源スイッチもそれに合せて黒い物です。これはたまたまなのですが、足もプラスチック製の黒い物です。」

Unagi-inu
Unagi-inu

「ウナギ犬壱号のリアビューです。電源の入力が、3PのACインレット(ヒューズ内蔵タイプ)に換えてあります。あと、出力端子を、テクニカルブレーンのOFC削り出し品に換えてあります。別にこの端子の音が素晴らしく良いというのではなく、たまたま手持の端子で、穴径が合うものがこれだったのです。入力端子は前方に移設したため、リアにはありません。」

いやあ、芦澤氏はほんとに完全主義ですなぁ。なんでもキット代金(18,000円)以上、おそらく25,000円くらい掛けているらしいです。その様子は、次の「内部写真」の解説を読めば判っていただけるかと。音もそれに見合っただけの骨格のしっかりしたクリアーな音を聞かせてくれました。

「ウナギ犬壱号」 の内部写真です。

「まず目に付くのが、ボリュームがオリジナルではない事ですね。もともとキットに付属していたものは、ALPSの小型品で、カーブもBカーブでした(ちなみに抵抗値は100Kオームでした)。その部品が悪いという訳ではないのですが、使いにくいという事もあって、TOCOSの24mmタイプ(50KオームAカーブに変更したのです。当然、かなり大きくなりますので、基板を一部カットしております。当然、それに伴い、パターンの引き回しも変更しています。」

Unagi-inu
「電解コンデンサの被服が剥いてあります。やはり、この処置を行うのとそうでないのとは、石でも球でも音のヌケが大きく変わってきます。最近のメーカー製品でも、ケミコンの外装を、従来のフィルムから、特殊塗料に換える等の処置を施した物が増えているそうです。

次に、自己バイアスと段間コンデンサが、ソケットに直付けしてあります。オリジナルでは若干離れていたのですが、気になって出来るだけ近くにマウントする様、心掛けました。但し、ソケット直付けは球の発熱の影響を受ける為、素子の耐熱性は考慮しなければなりません (とくに電解コンデンサ)。私は、105℃タイプの物を使用しました。なお、この部分のみ、ケミコンのリード線は、鉄製が好ましいと思っています(熱伝導が悪い為)。

それから、段間コンデンサは、当初ASCを使用しておりましたが、後でサイデリアルに変更しました。ASCだって良いコンデンサなのですが、情報量、抜け、音の厚み等、次元が違います。

また、判りにくいのですが、整流は、ファースト・リカバリ・ダイオードに変更し、しかも半波整流です。え?半波整流?とお思いの方もいらっしゃるでしょうが、どうも私はこの方が好きな音になります。音の贅肉が減り、良い意味でタイトに聞こえます。まぁ、好みの問題なのかもしれませんが...女の子も痩せている方が私は好きだしなぁ...

他には、フィードバック関連の抵抗器は、 VISHAY (VSR,一部S102K) を使用。フィードバックのDCゲインを落す為のコンデンサはWIMA (このコンデンサのみ、定数を変更しました。オリジナルでは0.1μFだった物を、0.22μFに換えてあります。定数の変更に深い意味はありません。手持で0.1μFが無かっただけです。)

そして、パターンの空きは無いようにして有ります。チャージアップを避ける為です。どうもこの処置をした方がS/Nが上がっていると思うのですが。どなたか追加で実験して見ませんか?ちなみに、真空管ソケットの中央部分のハトメも、GNDに落してあります。

後は内部配線のレイアウトが変わっています。大きなところのみ書きますと、

1.出力からのフィードバックが、オリジナルでは出力端子からシールド線で引っ張ってきているのですが(しかも左右共通!)、これは長くて気持ち悪い。ハムだって拾いやすくなるでしょう。そこで、トランスの2次巻線を、基板のFB抵抗器に直接接続しました。出力端子へは、同じポイントから、ワイヤリングして有ります。

2.入力端子を、筐体全面に移設し、内部での長い引き回しを止めました。端子は、電源スイッチとセレクタスイッチの取りつけ穴を、リーマで広げて対応です。当然、この2つのスイッチはそのままでは使えなくなりますので、電源スイッチは、筐体側面後側に移設 (スイッチの種類も変えました)。セレクタは無しという、けっこうアグレッシブなアンプとなっております。尚、電源ケーブルの引き回しが大幅に少なくなった為、ハムにも有利になっているものと思われます。

3.電源の極性合せを行ないました。これは、電源トランスの1次側だけでなく、2次側の高圧出力と、ヒーター用巻線の極性も合わせてあるという事です (ちなみに組み合わせは8通りです。全てチェックして極性を揃えました)。まぁ、気休めかな?それから、前出の冨士山氏の所でも書きましたが、8月の会合時に音だししたとき は、出力トランスを浮かせる処置を施しました。その詳細は、先日MLで流した通 り。」

ひゃあ、ご苦労様でした。

Country-Mama

私(しらた)の出品作品「カントリーマアム」です。詳しい記事はこちら。ほとんどノーマル状態ですが、次の個所について手を入れています。

1. カップリング・コンデンサをEROの円筒形のフィルムコンにして真空管ソケットに直付けにしてあります。

2. ネガティブ・フィールドバック回路の引き回しが長かったので、出力トランス根元からすぐに基盤に戻るようにしました。あと、NFB抵抗をフィリップスのものにしてあります。

「カントリーマアム」リアビュー。スピーカー端子をネジ式のハーモニカ端子に代えてあります。80円の汎用品。音質云々というよりも、Yラグ処理したSPケーブルをしっかりと固定したかったので採用しました。

あと、ACケーブルを3Pインレット式に変更したいような気がするのですが、所詮リビングのTVアンプですから、そこまで入れ込まなくてもなぁ、と思って放ってあります。この編の詰めの甘さが私の作品の音質を特徴づけているようです。ようするに「すこしゆるい感じ」が私のオーディオの音を特徴づけています。

Country-Mama

Shimada-Twin

島田先生のTU-870改、パラレル接続仕様です。ほぼオリジナル通りに作成したとの事ですが、フィルムコンデンサが追加してあります。

このへんについては、すでに商業誌に御自身で記事を書かれていますから、詳細はそちらを見ていただくことにして、簡単に要点だけ記しておきます。TU-870のアップグレードキット (要するにプロテクタと350V耐圧100μFの電解コンのセット)の電解コンが収まるべき場所にニッセイのポリエステル・フィルムコン 400V耐圧4.7μFを装着し、またデカップリング回路の電解コンにもニッセイの240V耐圧4.7μFを並列に装着するというもの。

「効果は抜群、小型五極管にありがちなひ弱さも消え、低音域での力感も出て、SNもよく、躍動感も沸いていた」との御自身の評価が記載されています。

そんでもってよりよいセパレーションやら何やらをもとめて2台のTU-870をパラ駆動されているわけです。1台のTU-870の両チャンネルもパラにしてあります。

「出力こそ2チャンネル分の4W弱ではあるが、歪みが格段と改善されている。f特も高いほうに伸びている。ダンピングファクタも倍加しているなどすべてがプラス方向である」と評価されています。

Shimada-Twin
Shimada-Twin`

上は島田先生機のリアビュー。パラレル接続のための入力アダプタが見えます。

常識はずれの改造を行うFaradayのメンバーのTU-870のなかでは限りなくノーマルに近い作品でしたが、まとまりのよい音を聞かせてくれました。あっさりした改造でしたので私(しらた)自身は「ふーん」という感じでしたが、芦澤氏は「こういう渋い改造にはベテランの深謀遠慮があるんだよ。なんでニッセイなのか、なんでポリエステル・フィルム・コンなのか。そういうところに長年の経験が現われるもんなんだよ。」とおっしゃってました。そういう深謀遠慮に行き着くにはまだまだ経験が不足しております。

島田先生機の内部のようす。電源ケミコンのとなりにでっかいフィルムコンが接続してあるのがみえますね。

田中氏の「タマリントン」の第一回目バージョン。以前の「緑のたぬき」の筐体を流用したものです。たぬきがバケたわけですね。

この段階ではTU-870の部品を全く使っていなかったのでProject Dの規定外だったのですが、2回目で見事に規定をクリアしました。その様子は下の写真をご覧ください。

Tamarinton
Tamarinton

「タマリントン」のトランス側のようす。トランスの一次側の絶縁がたんなるガムテープというあたりに実験機の雰囲気がありありと感じられる。

田中氏の「緑のタマリントン」の第二回目バージョン。見事にTU-870的デザインとなり規定をクリアしています(笑)。「TU-870(改)になりすました本機のスペックは、出力約1.5W、部品代約20,000円と、TU-870と互角」だそうです。

Tamarinton
Tamarinton

この写真をみると、「緑のタマリントン」の出力トランスの間にあった真空管が、TU-870(改)では、放熱器側に来ている事がわかります。電磁遮蔽を目的にしたものでしょうか?

写真ではわかりづらいのですが、シャーシ部分の塗装はわざわざつや消し黒のザラザラ仕上げにしてありまして、TU-870の純正シャーシの塗装を模しています。高度な回路設計・製作技術に、ありったけの遊び心を盛り込んで実現してしまう才能と根気に感服。

内部の様子。「配線は極めて簡単」と田中氏のコメント。そうかなぁ。いろいろとワザを効かせてるんじゃないでしょうか。

Tamarinton
Three 6BM8

「さて冨士山氏から、「ロシア管が良い」と聞いた しらた と芦澤は、早速クラシック・コンポーネンツに購入しに出かけました。店内で6BM8を物色していると、オリジナルのユーゴ管(Ei)ロシア管(National)の他に、ムラード管(Mullard)があるのを発見。但し値段は高い。ペアで5000円もします。

安直な私 (芦澤) は「それだけ高いのなら、さぞかし良い音がするにちげぇねぇ。」と思い、奮発して購入しました(勿論ロシア管も購入しました)。写真は左から、ロシア管とユーゴ管、そしてムラード管です。これを差し替えて、音の変化を確めようというわけです。」

「早速、私(芦澤) のTU-870改に装着して、音を出してみました。ここからは、主に私(芦澤)個人の感想です。まずはオリジナルのユーゴ管で聴いてから、ロシア管に換えます。うーむ、違う。こりゃぁ良い。S/Nが高いし、音にまとわりつく余分な響きが少ない。 従って、楽器の音が消えて行く様子が、よりはっきりと聞き取る事が出来ます。ちなみに武田さん (この字で良いんでしたっけ?) も同じ意見でした。確かに交換するだけの事はあります。

次にムラード管です。嫌がおうにも期待は高まります。何たってロシア管の3倍近い値段なんだもん。ところが、ところがです。音は冴えない。ぐずついた、暗い響きです。今聴いたロシア管と比べると、素朴ですが華がありません。音の表面も滑らかでは有りません(滑らかだったら良いという訳では有りませんよ)。3種類の中で は、一番好きくありません。

一番高い球だってのに、これは何かおかしいんじゃないか? 球はエージングで音が変わるって云うし、これは一発、各球ともエージングしなければ、本当のところは判らないのでしょう。次回の会合時迄に、私がエージングして、再度確める事となりました。

で、8月12日の会合時、再度鳴き合せと相成りました。皆さん、色々な意見があるとは思 いますが、ここは私の主観で書かせていただきますと...

7月の聴き比べの時の印象と、大差ありません。それぞれに受けた印象も、前回とほとんど同じです。但し、ムラードがけっこう頑張っているってな印象を受けました。音質の差は、前回ほど開いてはいないと受け取られました。

但し、ここで書いたコメントは、絶対的な評価となりうるほど聴きこんだ訳ではありません (そもそも、音質評価に絶対的評価って物があるかどうかすらも、私にはよく判らないのですが)。事実、7月会合時には、ムラードが良いという意見も出たくらいです。結局音って云うのは、各人の脳の中でしか認識できない物なのでしょう。」

前出の真空管比較試聴の為、差し替えている芦澤氏。チューブの足をアルコールと綿棒で拭いてから装着しています。些細な事ですが、こんな事でもおろそかにしたら、本来の音を聴けなくなってはもったい無い事ですからね。

Changeing Tubes
Ultrasonic Cleaner

田中氏の秘密兵器、工業用の超音波洗浄機。CDを洗うのが主な任務。定価は65,000円程度で「バイアグラも転写できる」という「何とかエナピー」とかいう機械より安いし、眼鏡や入歯にも使える。ピンプラグや真空管のピンも洗浄可能。本機は、会社のリストラ品をタダで手に入れたもの。

私(しらた)の防水時計を入れてみたら、金属ベルトのところから「もわぁー」と煙のようなものが水中に広がりました。金属ベルトの隙間の汚れが掻き出されてきたわけですね。いやあ、超音波は素晴らしい。最近は洗濯機にも搭載されているようです。

いやあ、みなさんおつかれさまでした。ここまでがメインの「Project D」 のレポートです。以下は9月例会予定の「Project M / Category A, Category M」の先走り作品等です。

Kurenai-no-Buta
田中氏によるPhilips TDA1552Q / スイッチング電源アンプ連作「赤いきつね」「緑のたぬき」に続く、新作「紅の豚」 です。さすが田中氏、鮮度の良い音を聞かせてくれました。

「4Ω負荷対応と、誰でも作れる事を考慮してジャンクを使用せず、ネミックラムダのスイッチング電源 (15V / 3.5A) を採用」とのことです。

「紅の豚」の内部。田中氏はボリュームシャフトの延長に凝っているようです。増幅回路本体は入力ピンジャックのすぐそばで完結してしまってます。

「ボリューム回りの配線を短縮するため「延長シャフト作戦」が復活した。手持ちの真鍮を使用したが、制震効果を期待するなら銅の方が良い? 次回実験する」とのこと。 レポートを楽しみにしております ;-)。

Kurenai-no-Buta
Suzuki-DAC

鈴木氏のノンオーバーサンプリングDACのバージョンアップです。DAC部分は、DAIR から、左右独立となっております。今回は更に、電解コンデンサを、OSコンに変更 したとの事。彼は今、OSコンに凝っています。これから使いまくる事でしょう。ほ どほどにね、ほどほどに...

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