スピーカユニットの固定方法に関する事例 /Jun 27, 2000
以前、新偽テレオス(あれ?偽新だったかな?)に書いた事が有りますが、スピーカユニットの固定には、ボルトとTナットを使用するよりも木ネジが良かったという話の続きです。
私はかれこれ足掛け3年ほど、FOSTEXのFW127とFT27Dによる2WAYスピーカシステム(1組だよ)を手がけております。何せ3年間ですから、それはもう幾度と無くユニットを付けたり外したりしました。幾ら木ネジが音質的に良い結果が得られると言ったって、これだけ長い間付け外しを繰返していると、当然の事ながら相手である木がボロボロになり、ネジが効かなくなってきます。その都度、バッフルに空いたネジ穴に木工用ボンドを流しこんだり、爪楊枝を突っ込んだり、場合によっては瞬間接着剤を流しこんだりしました。やはりそれでも次第にネジが効かなくなってきます。それで在る時から、音質に不利な事は判っていたのですが、ツイータのみにTナット(つめ付きナットとも云います)を使用することにしました。尚、ウーハは、何故か木ネジでバッチリ止まるようになり、これはそのままです。
判ってはいたのですが、やはり聴感上のS/Nが劣化し、常に余分な響きが感じられます。しかし背に腹は変えられません。まずはユニットがちゃんとエンクロージャに固定されている事が大前提です。この状態で約1年ほど細部の詰めを行なっておりました。当たり前ですがT、ナットに変更してからはネジがバカになることは在りませんでした。暫くは気にしないようにしてはいましたが、やがて「何とかTナット並に確実にユニットを固定できて、尚且つ音質の劣化の少ない手法は無いものだろうか?」と考え始めるようになりました。当然の経緯ですね。
先日、銭湯に入っているときに、ふと良い固定方法が無いか考えることを思いつき、湯船につかりながら、あーでもない、こーでもないと考え始めました。
「昔、T社(現在はK社)のスピーカで、ユニットをカメラのレンズマウントみたいに固定するってのが在ったなぁ。まぁ、あれは専用のユニットがあって相手側(バッフル側)にも専用の加工が施してあったな。ま、良いかもしれないけど自分のシステムには応用できないな。それにFT27Dのフレームはプラスチックだし、以前トルクを懸け過ぎて一部変形した事があったな。
うーん…..以前、国内のあるガレージメーカーで、ユニットのフレームの加工精度を上げる為に、購入したユニットのフレームをフライスで追加工するってのも在ったな。確かあれは、固定するときには専用のリングを使って、バッフルとそれ(リング)でユニットの取り付け部を挟みこむ構造をとっていたな。そんなに手間をかけていた割には、評価はいまいちだったみたいだ。
おっ!P社のミッドシップマウントってのもあったぞ。あれだったら、マグネット部にでっかいタップが切ってあったから、まずネジが効かなくなる事は無いし、確実に止められるぞ。でもそれを応用したら、箱を作り直さなきゃいけないぞ。そいつぁーいやだな。何とか楽して上手く行く方法は無いもんかなぁ……..」
私は、努力と根性そして忍耐という言葉が大嫌いな人間です。何時だって「如何に楽をして最大の効果を得るか?」を考えています。考えただけでうんざりするような手法は採用する気はありません。こうなれば意地です。
「うーむ。今までバッフルが木だったから、最初に木ネジを使ってえらい目にあってるんだよな。金属のエンクロージャだったら、タップが切れるから、通常のネジで問題無く固定出来るんだよな。でもエンクロージャは作り直す気は無いぞっと。そう云えばV社のユニフレームってのが在ったぞ。あれはユニットを2つ、同一の金属バッフルに固定するってもんだったな。あれを応用するか。でも金属加工はチョー面倒臭いぞ。
ん?要は、バッフルのネジを締めるところだけタップが効けば良いんだ。それも強度さえ確保できれば金属である必要は無いんだよな。これは何か良さそうなアイディアだぞ。つまり、バッフルに強固に一体化して、かつ必要な硬度のあるものを、Tナットを外した位置に充填して、硬化後そこにタップを切れば良いわけだ……….エポキシだな。硬化時間が十分に長く、完全硬化後はタップが切れるほどの硬度が確保できる2液性エポキシ接着剤を充填すれば、この問題は解決するに違ぇねぇ!強度はユニット質量が小さいツイータ用だから問題は無かろう。よしっ!」
湯船から上がった私はフラフラでした。
さて、次の休日、早速作業に取り掛かりました。まずは接着剤の選定です。近所のホームセンター(本当に近所に在る)に行き、接着剤売り場に行きます。贅沢を言えば、産業用の24時間硬化型の粘度が低いもの(粘度が低く、硬化時間が長い程、硬度が高くなる傾向が在ります。このタイプの接着剤は光学レンズの接着用等に使用されます)を手に入れたいのですが、そんな需要は近所には無いみたいです。結局手に入れたのはコニシ製で、粘度のさほど低くない10時間硬化型でした。しかし結果的にこの選択は正解だったのです。とにかくこれを購入して自宅に戻り、作業開始です。Tナットを外せば下穴は開いているわけですから、簡単に考えれば底をガムテープ等で塞いで接着剤を流しこめば良い訳です。
しかし現実はシビアでした。まず一本目にとりかかりました。穴の底にガムテープを貼りつけ、接着剤のA液とB液を適量混合し、穴に流しこんでドライヤで加熱します。加熱すると粘度が低下し、混合するときに発生した気泡が抜けてきます(この加熱をする事によって、硬化後の硬度も上がります)。更に針で突つき、穴の底に残っている気泡を追い出します。真空チャンバーでもあれば良いんだけどねぇー。そうすればこんな面倒な事をしなくても良いんだけど……あれこれ考えながら作業を進めます。接着剤を充填し終わり、上面がバッフル面と同一になるように量を調整します。さて、もう一本だ。
同じ要領で再度充填します。つつがなく作業が終わり、ふと一本目を見ると、何と液面が下がっています!2液性エポキシ接着剤は、硬化する事により収縮しますが、それにしても早すぎるし、収縮量が多すぎます。一体何が起きたんだ?慌てて見なおすと、度重なるネジの付け外しにより、穴の中の見えない部分が崩れ落ちて、そこから接着剤が染み出しています。染み出した分が、液面の低下として現れていたのです。もっと粘度の低い接着剤でしたら、全く作業になりませんでした。危ないところだった……….
結局、ある程度硬化して流れ出る恐れが無くなってから、再度注ぎ足しをして、その日の作業を完了させました。続きは明日です。これらの接着剤を使用する時の大事な項目として、完全に硬化するのを待ってから、次の作業にとりかかる事が挙げられます。私自身、焦って作業を進めたために、最初から接着をやり直した事が何度在った事でしょう。確実に1個ずつ処理して行くのが完成への最短距離です。
さて、次の日になりました。充填した部分を確認すると、確実に硬化しています。しめしめ。所定の位置にツイータを置き、ネジ穴部分にマジックで印を付けます。こう云う作業の場合、必ず現物合せで位置を出すのがポイントです。素人が精度良く組み上げるには、この方法しかありません。定規で寸法を出したところで、ちゃんと所定の位置に穴を開けられる保証は何所にも在りませんぜ。
マークした穴位置の中心に、直径1mm程度の呼び穴をバイスで開けます。深さは2〜3mm程度で良いでしょう。次にタップの下穴空けです。今回はM4のネジを使用するので、直径3.2〜3.3mmの穴を空けます。先の呼び穴を空けずにいきなりこの作業に取り掛かると、思いっきりずれた位置に穿孔するはめになってしまいます。そうなったら充填からやりなおしです。そいつぁーやだもんね。次にタップを切ります。いきなり3番タップから、、、何てことは止めて、面倒でも1番タップから作業を始めます。いくら硬そうな接着剤を選んだと言っても、所詮は樹脂です。斜めにタップを切らない為にも、ここは慎重に作業を進めます。こうしてタップ切りの儀は、滞り無く終了しました。発生した屑は掃除機できれいに取り去っておきます。ツイータをセットして見ると、ちゃんと取り付け穴の中心にネジ穴が来ています。うーむ、これからは私のことを、GTO(グレート-テクニシャン-おっさん)と呼んでくれ。
さあて、お次はユニットの取り付けと配線です。これは面倒臭いから省略して、いきなり試聴レポートです。
おっ!良い!良いぞ!S/Nは確実に向上している。これなら木ネジと比べても遜色無いぞ。滑らかさと激しさもちゃんと出ているし、何より聴いていて楽しい。
ところが、30分程聴き続けていて、オーケストラの低音バンバンのやつをかけた時でした。いきなり激しくびりつく部分が出始めました。「え?」一瞬で冷や水をぶっかけられたような気持ちになります。一体何が起きたのだろう?暫くは原因が判りませんでしたが、ツイータとバッフル板の間に隙間が生じていて、少し緩んだ為に隙間が出来てびりついた様です。あーあぁ、これからは私のことをPTA(プア-テクニシャン-あんちゃん)と呼んでください。
この状態でネジを増し締めすると、びりつきは収まりますが、何とも気分が晴れません。もっと根本的に対処できないものだろうか?再度考えた挙句、次の事を考えました。
「今回びりついたのは、何回も同じエンクロージャを弄くってきた為に、バッフル面の平面性が悪くなっていたからだ(これは定規を当てて確めた)。新品のエンクロージャであれば問題は起きないであろうが、もう作り直す気はさらさら無い。それならば、いっそ面による固定を諦め、ワッシャをかませて点に近い保持をすれば、以降こんな不具合は起きないはずだ。隙間が出来てしまうが、それは隙間テープでパッキンを作り対処しよう。」
早速、ポリカーボネイト製で厚さ0.8mmのワッシャを、固定ネジ4本の各位置に挟みました。勿論パッキンも併用しました。実はパッキンをつける前に、隙間が在る状態で音出しをしてみたのですが、低音がさっぱり出ない、スッカスカの音になりました。ユニット周りにわざと隙間を作り、低音をコントロールしているシステムも在りますが(そりゃあすごいクオリティーの音を出すシステムです)、それが如何に良くチューニングされているかが判りました。ウーハも同じように隙間を作ってみましたが、やはり低音が何所かに行っちゃった音になりました。さすがプロはプロです。敵いません。
話を戻して再度試聴です。
うん。良いと思う。気のせいか判らないが、前の状態より音の分離が良くなっている。更に数時間いろいろなCDをかけましたが、びりつきは在りません。低音も透明感が向上したように感じられます。よし、暫くはこの状態でいこう。
やっぱりGTOと呼んでくれいっ!
(今回の結果は、私の自作システムにおいての話であり、またFT27D以外のユニットで試したことは有りません。従って、この手法が他のシステムやユニットにも有効である保証は在りません。トライされる方は、この事を十分理解した上で作業に取り掛かってください。当たり前ですが、当方は一切の責任を負いませんぜ。)
(芦澤)
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