『ワルツ・フォー・デビー』聴き比べ /Mar 15, 2001ファラデイのメンバー3人(藤川・大野・植木)でビル・エヴァンスの名盤『ワルツ・フォー・デビー』を聴きくらべた。場所は藤川宅、システムはCDがワディア6、アナログがEMT930(針はTSD15でイコライザーはパス、トランスはFRT3G)。それをマランツ7T&510MへつなぎJBL4343Bをドライブした。 聴いたのはCD4種とアナログ2種の計6種。内訳は、 CDが @通常のアメリカ盤(ファンタジー社発売のOJC盤。現行品で市場価格1200〜 1800円程度。) A91年発売の日本盤(定価2300円) B97年発売のK2・20ビット処理盤(定価2000円) CXRCD盤(定価3800円)で、 アナログが D通常のアメリカ盤(ファンタジー社発売のOJC盤。現行品で市場価格1700円 程度) Eアナログ・プロダクションズ社のリマスター盤(市場価格3800円)である。 (聴いたのはトラック2の「ワルツ・フォー・デビー」) 以上の6種を聴いた印象を主観的、かつ妄想気味に書いていこう。普通の依頼原稿だとこうは書けないけど、まあそこはホームページということで…。 まずは@、スコット・ラファロのベースが立体的によく弾み結構イイ感じ。シャープさにはやや欠けるが、ノリのいい何等不満の無い音だ。これはバークレーのファンタジー・スタジオでデジタルマスタリングされた物。うん、これがいわゆる、ジャズで名高いバークレー音楽院がある場所の音作りというやつか!(かなりの思いこみ&妄想) 続いてA、これも悪くない。@よりは少々ほこりっぽさを感じるが許容範囲内で、@を聴いてなかったらこれでも満足しただろう。 それからB、これはヒドかった。ヒスノイズが耳を差すように聞こえてくる。ドルビーBのデコードを忘れたまま聴いてるカセットっていう感じで、実際アンプのトレブルを2つしぼったらバランスはよくなった。 そしてC、これはBとは正反対の音だった。耳ざわりはいいものの音像肥大ぎみのバランス。なによりも耐え難かったのはマスターテープのワカメ化が原因と思われる音のヒシャゲが演奏が始まってすぐに聞こえてきたことだ。このCDでは一曲目の最後にも音のフラツキがあったので、渡されたカッティング用マスターの質があまりよくなかったものと思われる。 続いてアナログ、Dはわりとイイ感じ。会社が同じだけに@と同質の良さを感じる。程良いルーズさがとてもジャズっぽい。もしかするとカッティング用マスターが@と同じなのかも知れない。 最後のE、これは世評の高い盤だけあってさすがの音がした。簡単に言うとDをデジタルリマスタリングした感じで、Dほどはベースが自由に弾まないが、その分ピアノのクリアさは高まり、ドラムもより近い感じに再生されている。最も良くなったのはライブ感で、客の出すグラスの音や話し声、さらには拍手の音がとてもリアルになった。明かりを消して聴いているとまさにライブハウスの中にいる感じになってくるのである。 以上6種を聴きくらべて、音の違いの大きさにけっこう驚いた。違いが出るのは当たり前だけれど、困るのは、いろんな処理をした方が音がイイという訳でもなかったし、値段と音が比例する訳でもなかったということだ。特に日本盤の音のプアさにはまいった。しかも日本版に限ってはいろんな処理をした方が音が悪くなっているではないか! 日本盤3種(XRCDは日本盤に入れる)の中で一番音の良かったのは、はっきり言ってAの特別なことは何もしていないCDだったりしたのだ。しかもこのAのCDには、ロスのJVCでアメリカ人スタッフによりオリジナルマスターテープからデジタル変換されたマスターが使用されているというではないか! BのK2・20ビットやCのXRCDは「日本人の感性を活かして特別な処理を施して作られた」という触れ込みだけど、はっきり言って音は良くない。特にCは音以外のところのパッケージ商品としてのクオリティが高くない。一瞬不良品じゃないかって思ったほどだ。おそらくエンジニアは渡されたマスターからの精いっぱいの努力はしたんだろうけど、発売済みの他の音源との聴き比べをやる努力は怠ったんじゃないだろうか? 通常盤ならまだしも、高音質高品位をうたって高価格を付けているXRCDなんだからそこまでやって、最高の、少なくとも既存の物以上の音質の商品をつくる義務があるんじゃないかと思うから、マスターテープの不備に気付いていないのは致命的だ。もっとも、その辺はエンジニアというよりプロデューサーの仕事の範疇という感じもする。もしこれ以上のマスターテープが入手できなかったというのなら、XRCD化するメリットは無かったんじゃないかと思う。XRCDの中には音質改善効果の著しい物もあるだけに残念だ。 日本のオーディオメーカーがよく「これこれの特別なプロセスを経たので最高の音になりました」と言うけれど、それが眉唾であることが非常に多いのはみなさんも御存知のことと思う。それとまったく同じことがこれらの日本製特製CDにも言えるだろう。 それなら「全く何もしないほうがいいのか?」と言われると、それも違うと言わざるを得ない。なぜならEのアナログプロダクションズ製アナログ盤が存在するからだ。何もしない良さが@とDなら、Eには、いい耳といいジャズセンスの持ち主が一定の意思の元に音を作った良さが、明らかに感じられる。 まあ結論としては、少なくともジャズの、音質面に限って言うならば、日本盤を買うのは避けた方がいいと言えるのではないだろうか。乱暴を承知で全6種の音質の順番をあえて付けると、いい順にE、D、@、A、B、Cとなったからだ(EとDは好みによっては順位は入れ替わるかも知れない。Aまでは普通に満足して聴いてられるが、それより下は御勘弁って感じ)。つまりは日本人が音を作った盤はダメってことになる(たまたま今回聴いた音源がそうだったのにすぎないのかもしれないが…)。 実を言うと私はこれまで、あまり同一音源の盤違いを集める趣味は持っておらず、同じ金を出すなら違う音源を買いたいと思う方だった。しかしたまたまこの『ワルツ・フォー・デビー』は数種集まってしまっていたところに、植木氏が私とは違った盤をいくつか持っていたので、今回の比較試聴会が実現したのである。実際やってみてこれにハマる気持ちも少しは理解できた。幸か不幸か、この『ワルツ・フォー・デビー』は再発を繰り返し実に多くのバリエーションが存在するので、これからも比較はやってみたいし、最高の音質と言われるオリジナル盤もいつか聴いてみたいと思っている。 追記 ある友人の御好意で『ワルツ・フォー・デビー』のオリジナル盤を借り受けて聴くことができた。念願が意外と早くかなって大喜びで、さっそく手元にあるEと聴き比べをしたのだが、はっきり言って甲乙つけがたい感じだった。比較して言うと、Dの自然さを生かしたままEのオーディオ的快感の高い音に近づけたという感じだ。 ただオリジナル盤はさすがに盤の状態が悪く、ひっきりなしにサーフェス&スクラッチノイズが耳を刺す状態だったので、コンディションが最高だったらまた評価が変わってしまう可能性は大いにある。しかし『ワルツ・フォー・デビー』のオリちゃんのミント盤なんていくらするのか見当もつかないので、Eのアナログ・プロダクションズ盤で満足しておくのが現実的かつ賢明というものなのかも知れない。 (藤川)
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