Cubby, Inc., v. CompuServe Inc., 776 F.Supp. 135

* Cubby, Inc., v. CompuServe Inc., 776 F.Supp. 135 *

白田 秀彰

独立した情報提供事業者が送信した電子ニューズレターを、内容について関与することなく伝達しているオンラインサービス事業者は、その内容について知っていたか、又は知る理由があった場合にのみ、その内容を原因とする不法行為責任を負う。

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1 事実の概要

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被告CompuServeは、CompuServe Information Serivce (CIS)と呼ばれる、一般的オンライン情報サービス又は電子的図書館サービスを含むコンピュータ関係の商品やサービスを開発・提供している。

CISで提供されているサービスの一つにジャーナリズム業に関連した「ジャーナリズム会議室」がある。

Cameron Communications Inc. (CCI) は、被告とは独立した事業者で、「CompuServeによってあらかじめ定められた編集・技術基準、および文体上の慣習に従って」ジャーナリズム会議室の「内容を管理、閲読、製作、削除、編集又は管理」する業務について被告と契約関係にあった。

ジャーナリズム会議室の一部として提供されている情報には、放送ジャーナリズム業および報道関係者の動向に関する報告を内容とする Rumorville USA (Rumorville)と呼ばれる日刊のニューズレターサービスがある。Rumorvilleは、被告Don Fitzpatrickが編集責任者を務めるDon Fitzpatrick Associates of San Francisco (DFA)によって提供されていた。被告は、DFAおよびDon Fitzpatrickと雇用関係、契約関係又は他の種類の直接的な関係にない。DFAは、RumorvilleをCCIとの契約関係に基づいてジャーナリズム会議室に提供していた。CCIとDFAとの間の契約では、DFAがRumorvilleの「内容に関する完全な責任を負う」と定めている。

DFAが被告の記憶領域にRumorvilleの内容を投稿(upload)する以前には、被告がその内容を閲読する機会はない。一方、利用資格を持つCISの会員は、それを投稿と同時に閲覧することができる。

1990年に原告Cubby, Inc. (Cubby)およびRobert Blanchardは、放送ジャーナリズム業におけるニュースや噂話を電子的に提供し配布することを目的としたSkuttlebutと呼ばれるコンピュータ・データベースを開発した。原告たちはRumorvilleと競争関係に入ることを意図していた。

原告の訴によれば、1990年4月に数回にわたって、Rumorvilleは SkuttlebutおよびBlanchardに関連する虚偽かつ名誉毀損に当たる言辞を公表し、被告はジャーナリズム会議室の一部としてこれらの言辞を伝達した。名誉毀損とされている発言は、Skuttlebutを作成している人物たちが「なんらかの裏口を通じて」Rumorvilleで最初に公表された情報を利用しているというもの、また Blanchardが彼の以前の雇用者WABCから免職されたというもの、およびSkuttlebutを「新手の詐欺」として表現したものである。

原告は、Rumorvilleに含まれていた名誉毀損とされる言辞を理由としてニューヨーク州法に基づき、Blanchardに対する文書誹謗、Skuttlebutに対する商取引における不当取扱よる名誉毀損(business disparagement)、Skuttlebutに対する不正競争(unfair competition) についてCompuServeおよびFitzpatrickを訴えた。CompuServeは、これらすべての争点について、連邦民事訴訟規則 56条(Fed. R. Civ. P. 56) に基づいて正式事実審を経ない簡易な審理(summary judgment、以下S. J.と略) を請求した。CompuServeは、S. J.を請求する目的のために限って、SkuttlebutおよびBlanchardに関する言辞が名誉毀損に該当したかどうかは争わないとし、むしろCompuServeは、その言辞について自らが発行者(publisher) でなく配布者(distributor)として行動しており、その言辞の内容について知らなかったし、また知る理由もなかった故に、その言辞に関して責任を負わないと主張した。原告は、重要な事実に真正な争点が存在し、またこれまでの証拠開示手続が不十分であることを主張して、CompuServeのS. J. の請求に反対した。

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2 判旨

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CompuServe側に対する訴のすべてについてCompuServeが要求した S. J.を認める。[Leisure裁判官による命令(order)]

I. S. J.について (省略)

II. 文書誹謗について

名誉毀損的内容を伝達(repeat)したり、再発行(republish)したものは、通常の場合、それを最初に公表したものと同様の責任を負う。しかしながら、名誉毀損的内容の販売者(vendor)又は配布者(distributor)であっても、新聞販売者 (news vendor)、書籍販売者(book store)、図書館(library)等のように販売・伝達している情報の内容について通常知らず、また知る理由のない場合には、内容に対する責任を負わない。

被告が提供するCISは、膨大な出版物を保有する営利目的の電子的な図書館であり、加入者からそれら出版物利用の対価として使用料又は会費を徴収している。被告は、それら出版物をまったく配送しないという選択をしうる一方で、出版物を配送すると決定したならば、その出版物の内容に関して編集上の管理能力 (editorial control)を持たない。これは、被告が出版物を自らとは関係のない会社によって運営される会議室の一部分として提供する場合にとくに当てはまる。

コンピュータ化されたデータベースは伝統的な新聞販売者に機能的に等しいものであり、公共図書館、書店、新聞販売者に適用されてきた基準よりも厳格な責任を被告のような電子的新聞販売者に不均衡に適用するのは、情報の自由流通に過度の重荷を課すことになる。被告が責任を負うのは、名誉毀損的であるとされるRumorvilleの内容を知っていたか、又は知る理由があった場合とするのが適当である。

III. 取引上の不当取扱による名誉毀損(Business Disparagement)について

取引上の不当取扱による名誉毀損の訴をなすためには、名誉毀損的言辞を含むとされるRumorvilleの発行について被告が知っていたか、又は知る理由があったことを証明しなければならない。

IV. 不正競争について

名誉毀損(Disparagement)に基づく不正競争を訴えるものは、現実の損害を生ぜしめた侵害的な虚偽が故意に述べられたことを示さなければならない。それゆえ、仮に被告が Rumorvilleに含まれていた言辞について知らなかったか、又は知る理由がなかった場合、原告の主張する不正競争の訴について責任を負わないことになる。

V. 使用者責任について

代理関係の本質的特徴は、代理人が主人の指揮と監督に服することにある。一方、独立の契約者の本質的特徴は、契約の目的である生産物や仕事の結果を除いて、雇用者の指揮に服することなく、特定の仕事を彼自らの方法で行うことにある。独立した契約者の不法行為について雇用主が使用者責任を問われるのは、雇用者が侵害的結果をもたらした行為を指揮したり、又は、その行為の実行において確定的かつ積極的な部分を担っていた場合である。

被告は、ジャーナリズム会議室の内容全体の管理をCCIに委ねている。被告の定めた基準に適合しない文書を削除しうるという契約上の被告の権限は、CCIが独立して行った作業の結果に対する管理権限を示すにとどまる。CCIが直接管理するジャーナリズム会議室に対する被告の管理能力は、両者間に代位関係を認めるには不十分である。また、被告がCCIに電子会議室を運営するのに必要な技術指導を行うこと、電子会議室に掲載された内容から生じる訴訟からCCIを保護することが契約上定められている。しかし、これはCCIを被告の代理人と認めうるほどには、CCIと CCIが行う電子会議室運営への監督を規定したものではない。

被告は、DFA社との間に直接の関係を持っていない。CCIとDFA社の間の契約は、DFAがRumorvilleの内容に関して完全な責任を負うというものであり、またCCIはRumorvilleの配布者として、会員との対応や課金等の管理作業に責任を負うことになっていた。すなわち、DFA社はRumorvilleの発行に関して被告から独立しており、DFAと被告の間の関係は、独立した契約者の関係である。それゆえ、これらの当事者は、あらゆる意味で互いに代位関係にあるとは考えられず、被告は、原告が主張するような使用者責任を負わない。

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3 解説

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本裁判記録は、文書誹謗による損害の賠償を求める原告Cubbyの訴えに対して、被告CompuServeがS. J.を請求し、これを法廷が認める決定(order)をしたものである。この決定の理由の中でLeisure裁判官は、一般オンライン情報サービス業としての被告が負うべき責任の基準について判断を示した。このため、本裁判記録は、ネットワーク管理者がそのネットワークの利用者の行為について負う責任に関連して言及される [1]媒体(media) の責任については、本来各州のコモン・ローに基づいて判断されるものであるが、リステイトメントに示される各州に共通するほぼ確立した基準が存在する。

書籍等の発行者(publisher)は、発行する内容について、著者と同等の責任を負うとされる [2]。これは、発行者は編集・発行の過程を通じて、内容を制御しうる立場にあるので、名誉毀損的言辞を伝達した場合には、発行者の主体的選択がなされていることになるからである。

一方、書店に代表される頒布者(distributor)は、名誉を毀損する表現があったことを「知っていた」か「知る理由があった」場合にのみ、被害者に責任を負うものとされる [3]。さらに、コモンキャリアは、無差別的な役務提供の義務のゆえに、利用者がその設備を用いて他人の名誉を毀損することがあっても、利用者の行為について責任を負うことはないとされる [4]。コンピュータ・ネットワークを利用した通信サービスを提供している事業者の責任の程度は、上記の名誉毀損法上の三つの類型のいずれに該当するかにかかる。

裁判所は、本件の事実認定で、被告が文書誹謗が行われた電子会議室の運営をCCIに完全に委託する契約を結んでいた事実を重視した。すなわち、訴えの原因となっている名誉毀損的言辞について、被告が編集上の管理能力をもたなかったことを認め、被告を「営利目的の電子的な図書館」であると判断した。このため被告の責任は頒布者としてのそれに限定され、被告が名誉毀損的言辞の存在について「知っていた」か「知る理由があった」ことの立証責任が原告に移ることになった。

しかし実際には、CompuServeが行っていたパソコン通信サービス [5]では、自らホストコンピュータを備え、議論の場を提供し、自らも情報内容を提供することが一般的であり、判旨が被告の行っているすべてのサービスについて一般的に適用されるものではないことに注意する必要がある。実際、本件とよく似た事実関係にあった、Stratton Oakmont, Inc. v. Prodigy Service Company事件 [6] では、被告PRODIGYは発行者 (publisher)であると判断された。

その理由として裁判所は、被告PRODIGYが、家族が安心して楽しめる (family-oriented)内容を提供するため、電子会議室の内容を監視し、不適切な内容を排除するという理念を利用者に宣伝していたこと、次に、被告が特定攻撃的な単語を自動的に削除するソフトウェアやボードリーダー (Board Leader)と呼ばれる会議室の世話役を設置し、実際に不適切な内容を削除していたことを指摘した。

PRODIGYが実際に電子会議室の内容を監視していたのは事実だったが、Cubby 事件で裁判所が指摘し [7]、また Prodigy 事件でも被告側から主張された [8] ように、膨大に投稿(upload) される記事の内容についてそのすべてを漏れなく閲読することは事実上不可能である。それにもかかわらず、PRODIGYが発行者とされたのは、禁反言 (estoppel by representation) が適用されたからだと思われる [9]

PRODIGYは、不適切な内容の削除をサービスの美点の一つとして宣伝することで、サービスの魅力を高めようとしていたからである [10]。また、担当のStuart裁判官がこうした規制に好意的でなかったことも理由の一つだと思われる。Stuart裁判官は、PRODIGYの削除ソフトウェアやボードリーダーが「サイバースペースにおける通信の自由に対して抑止効果(chilling effect) を発揮していた... そしてその抑止効果こそがまさにPRODIGYが求めていたものである。しかし、そのような検閲には法的責任が付随している」と述べている [11]

このようにCubby事件は、Prodigy事件と対になり、第三者の情報内容を伝達する際のパソコン通信事業者の責任について、皮肉な結果を招いた。すなわち、その目的が有害情報の流布防止にあるとしても、第三者の情報内容をより積極的に統制しようとする事業者、又はそのように宣言している事業者ほど重く、第三者の情報内容についても発行者としての責任を負うというものである。

この皮肉な結果への一つの対応として、1996年電気通信法第5編 [12] 第509条(c)項(1)号に「善意(良きサマリア人) に基づく侵害的内容の遮断および選択的排除の保護」の項目を置き、双方向コンピュータサービスを提供または使用するものを、他の情報内容提供者が提供する情報の発行者として扱わないと規定した。しかしこれは、未成年に不適切な内容の伝達を遮断することへの免責を明記したものであり、通信内容の閲読に伴って生じる名誉毀損的内容に関する発行者としての責任をも免責したものとは考えにくい。加えて、連邦法である1996年電気通信法は、州際又は国際通信にのみ適用されるものであり、ある州内で発生し、その州法に基づいて審理される名誉毀損に関しては適用されないことは明らかである。すなわち、Cubby事件とProdigy 事件で導かれた不都合な結果は解決されていないのである。

Note

[1]
例えば、Jonathan Rosenoer, Cyber Law, 112─116 (1997), Jonathan Wallace and Mark Mangan, Sex, Laws, and Cyberspace, 83─99 (1997), Anne W. Branscomb, Who Owns Information?, 103─104 (1994), Edward A. Cavazos and Gavino Morin, Cyberspace and the Law: Your Rights and Duties in the On-line World, 82─84 (1994). Marc L. Caden & Stephanie E. Lucas, Comment, Accidents On the Information Superhighway: On-Line Liability And Regulation, 2 Rich. J.L. \& Tech. 3 (1996) available online, http://www.urich.edu/\}jolt/v2i1/caden\_lucas.html. Francis Auburn, Usenet News And The Law, 1 Web JCLI 1 (1995) available online, http://webjcli.ncl.ac.uk/articles1/auburn1.html. 邦語文献として例えば、棚橋 元, コンピュータ・ネットワークにおける法津問題と現状での対応策(3), 1997 NBL 39、John Middleton, サイバースペースと名誉毀損, 1997 ジュリスト増刊 変革期のメディア 54、高橋 和之, インターネットと表現の自由, 1997 ジュリスト 26 を参照。
[2]
Restatement (Second) of Torts S578.
[3]
Id. S581.
[4]
Id. S612.
[5]
コンピュータを用いたネットワーク通信事業には、大きく分けて 2種類の類型がある。ホストコンピュータを設置し、そのホストコンピュータで電子会議室(BBS) やさまざまな情報サービスを提供するパソコン通信型サービスと、第三者のコンピュータで提供されている情報内容への接続口(gateway) を提供するのみのアクセス・プロバイダ型サービスである。後者の場合、通信内容に関する関与はほとんど現実的でない。しかし、現在ではこの両者のサービスは融合する傾向にあり、個々の事例毎に通信事業者の関与の程度と責任の重さを検討する必要があるだろう。
[6]
1995 WL 323710 (N.Y.Supp). CompuServeと同様に、PRODIGYは、電子会議室を中心としたパソコン通信サービスを行っている。PRODIGYが開設した “MoneyTalk”と呼ばれる電子会議室で、投資銀行である原告の業務を誹謗する内容が匿名の何者かによって掲載されたため、電子会議室を開設していたPRODIGYが発行者として訴えられた事件。
[7]
776 F.Supp. 140.
[8]
1995 WL 323710, 3.
[9]
ただし、被告は、ある利用者が他の利用者から誹謗されないことを直接的に保障していたわけではない。また、原告が被告の行為を信じて自己の利害関係を変更したか否かについても裁判記録では言及していない。
[10]
過去にPRODIGYが直面した、電子会議室での内容規制に関する紛争とその対応について。Mike Godwin, Prodigy Stumbles as a Forum ... Again, available online, http://www.eff.org/pub/Publications/Mike_Godwin/prodigy_censorship- _godwin.article.
[11]
1995 WL 323710, 4. しかし、内容規制を理由として通信事業者に内容に関する責任を負わせるのは、事業それ自体への抑止効果を生む。結果的に利用者の言論の自由を狭める結果になっているという批判もできよう。
[12]
Pub. L. No. 104─104 S.501 et seq., 47 U.S.C. 223 et seq.

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to Hideaki's Home 白田 秀彰 (Shirata Hideaki)
法政大学 社会学部 助教授
(Assistant Professor of Hosei Univ. Faculty of Social Sciences)
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